執筆:NYK 高木 2018年6月13日
はじめに
病院、クリニック(診療所)、こういった医療機関は大半が保険医療機関として運営されています。皆さんも「お腹が痛い」「ケガをした」などの理由で受診したことがあるでしょう。このとき保険証を提示すれば、負担割合に沿って請求額が軽減されるのが現在の日本の医療受診システムです。
例えば、一般的な働く20代であれば「3割負担」で残り7割は国保連合会や社会保険支払基金等から病院に支払われます。この支払いを受けるには医療機関側がレセプト(診療報酬請求書)を保険請求先に提出しなければならないのです。
診療報酬の請求
レセプトは検査や処方内容との整合性が問われるのですが、一番重要なのは「傷病名」で、この傷病名については診断をした医師がカルテ等に記載しなくてはならないのです。ただ、ここで問題が発生します。医療現場において多忙を極める医師は、この病名の記載を怠り、結局、事務担当者らが判断し記載していることも多いのです。レセプトを通すための病名「レセプト病名」です。
その人物の疾患を見極めるために血液検査やCT検査を多く注文する医師もいますが、それでも診断がつかない場合、やったことに関してはすべて「疑い病名」を付けなくてはならないのです。一つ一つの検査に対し疑い病名が何個も羅列されます。診療報酬を支払う側からすれば「この病院の医師は症状からの判断能力が低いのかな」とも思われかねません。
医学知識もかじった程度の事務員等がレセプト病名を付ければ、プロから見れば見破られることも多いでしょう。例えば、高血圧で治療中の患者がいたとして、ECG(心電図)とX-P(胸部レントゲン)の検査を行ったとします。ここで事務員が「今月はこの検査を行っているけど、特に所見はないから、左心肥大と不整脈の疑いでもつけておこう。」とレセプトを作成し請求します。この請求を受けた側は、これはド素人が付けた病名だと一発で見破ります。なぜなら、高血圧で治療中であれば、定期的にECGやX-Pでフォローするのが通常であり、新たな病名等必要ないからです(一例として挙げています)。
ただ、事務員側も好きで自分で病名をつけているわけではないでしょう。病院の方針に逆らえず、やむなく付けているのです。悪く言えば「クビになりたくなければ、言う通りにしろ」ということです。「俺は医者だ、医者がいなければ病院は成り立たない」などと思っている傲慢な医者が多いのも事実なのです。
診療報酬が支払われない
病名を含むレセプト内容に疑問符がつくと、連合会や支払基金から「返戻」という形で戻され、必要箇所を訂正してい再提出するまで報酬が支払われなくなります。病名が検査内容と不一致などの場合、返戻されたレセプトに関し「なんでこんな病名もつけられないんだ」などと罵倒されることもあるかもしれません。傷病名を付けるという自分の仕事を全うしていない人間に言われたくはないことですね。
診察しないで薬だけ
次に「薬のみ」について触れる。日常生活が多忙な患者からすれば、病院での待ち時間は苦痛なものです。それが軽症であればあるほどです。薬だけ貰えませんか?と聞いて、はい、では薬だけ用意しますね。といわれ薬又は処方箋を手渡され支払いだけして終了ということを経験したことがある人は非常に多いと思います。でもこれ「違法行為」なのです。
患者側には罪の意識はありません。医療従事者でない限り、これが実はダメなことという認識が無いからです。ですが、医療機関側は知らなかったでは済みません。と、いうよりも絶対に知っているハズです。医療従事者であれば最低限の療養担当規則位は頭に入っているでしょう。
医療機関は、薬を処方する際に患者本人を対診(きちんと対面して診察すること)して処方を行うことと法で定められています。こういうことを日常で行う医療機関の医師は、厚生局等の監査の際にバレないようにカルテに「Folloe up」や「n.p.(No problem)」などと記載をして処方内容を書いておきます。実際の書面上では、患者本人が告発でもしない限り、バレることは少ないかもしれません。
医療機関から提案!?
ただ、患者側から”忙しい”などの理由で薬のみを医療機関にお願いするのはまだマシなのです。医療機関によっては、予め定期診察などの予約をとっていて、来院した患者に対し診療前の問診する看護師などが「今日、特に具合が悪くなければ薬だけ出す形でもいいですかね?先生、今日とても混んでいてたくさんお待たせしちゃうし、この後Opeだから」等と”医療機関側から”薬のみへの変更を伺ってくる場合があります。これは、とんでもないことです。
患者からすれば、せっかく予約をとってきたものを医師と会えずに薬だけにされてしまうのです。もちろん、請求される金額には診察したときと同じく再診料や、検査をしていれば検査料などもきちんと加算されて請求されます。医療機関側は、診察してないからといって診察料を抜けば、不自然となり不正がバレることになるからです。なぜ、診察料をとっていないのかと聞かれ「薬だけにしましたから」とは言えませんからね。
過去事例
もう数年前の話になりますが、ある医療機関で「薬のみ」の扱いをしているとの噂を聞いた役人が患者としてその医療機関に通い証拠を集めて摘発したこともあります。こういったこともあり、現在では小さいクリニック等でも「薬のみは扱わない」と改めて掲げる医療機関も増えています。もし、医療機関に通ってして、このような行為を受けた場合は、厚生局に電話すれば一発で注意、または監査に入ってくれるでしょう。しかし、なかなか上手くいかないもので、患者と医師との人間関係、今までの診察の経緯などがありますから、患者側がきちんと名乗り、証拠をつかむまでにいけない状況もあります。患者の中には医師に対し情がわいている方もいらっしゃるでしょう。
診療報酬に関わることとなれば、そのプロフェッショナルである「医療事務」従事者がメインとなります。ですが、前述したような薬のみの際の診察料の取り扱いなどを含む、多くは医療事務の判断ではなく、組織によって決められています。医療機関の組織というのは一般企業とは違い、医師を筆頭にすることから特殊なものがあります。そんな組織にイチスタッフが逆らうのは、中々難しいでしょう。また、重要な役割を担う病院では、その病院が傾けば患者が路頭に迷う場合も想定されるため、お役所もある程度は目をつぶる、または、不正に対する措置を軽減するなどして対応しなければならないのが現状かもしれません。
最後に
一生懸命に、真面目に、診療、医療に取り組む医療機関、医師、スタッフも大勢います。今回挙げたのは一例であり、すべての医療機関がこれに該当するわけではありません。優良な医療機関もたくさんあります。患者と医師、その両者共にメリット、デメリットがあるのが今の医療現場の状況です。病院でも待ち時間問題も然り、救急搬送のたらい回しも然り。
このような状況を打開し、皆が適切な医療を「受けられる」世界、そして適切な医療を「提供」できる世界になってほしいと願うこのごろです。
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